物流業は様々な業務があり、また倉庫以外の届け先なども現場となる複雑な業界です。また、ECサイトの利便性の高まりに伴って、いくつかの課題も生じてきています。そんな物流業において、今注目されているAIはソリューションとなりうるのか、また物流AIの今後の課題は何なのかを、具体例やデジタルトランスフォーメーションなどもご紹介しながら解説していきます。
目次
今、物流の抱える課題とは?
課題①人員不足
ネットショッピング市場が拡大を続ける現在ですが、その裏で成長を支えているのが物流業界です。24時間365日、どこからでも利用可能な点が便利なネットショッピングですが、その分物流倉庫も24時間稼働し、業務にあたる人員が存在しています。また、倉庫内では入出庫管理、検品作業、仕分け作業など、数多くの業務が行われています。商品が倉庫を出てからも、配送手配や受注処理、実際の配送やトラブルへの対応など、本当に多くの業務と人的コストが発生しています。
しかしながら、近年運輸業の就業者は減少傾向にあり、離職率が入職率を上回っているのです。若年層の入職率もまた減少傾向にあり、2018年における国土交通省の調べによると、「物流分野における労働力不足が近年顕在化。トラックドライバーが不足していると感じている企業は増加傾向。2017年は63%の企業が「不足」又は「やや不足」と回答。」しているといいます。団塊世代の定年を控え、また高齢化の影響もあり、若い労働力の獲得が急がれる中、その過酷な業務内容は入職率を下げ、離職率を高めている要因の一部であるといえるでしょう。
課題②長時間労働
物流業では、その長い拘束時間が、改善すべき点として注目されています。例えば、トラックドライバーの年間労働時間は、全産業平均と比較して約1.2倍だとされています(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。
このような長時間労働の要因の一つとされるのが、長時間の荷待ち時間・荷役時間です。荷待ち時間・荷役時間とは、荷主や物流施設の都合によってドライバー側が待機している時間や、荷物の積み下ろし時間のことですが、指示待ちの時間も含まれており、この長くて3時間ほどの待機時間により、ドライバーの拘束時間は伸びてしまっています。
課題③再配達・受け取り拒否問題
最適化よりも先にサービスが先行してしまった結果生まれたのがこれらの問題です。なんと再配達の割合は全体の配達数の約2割にのぼり、この2割を労働力に換算すると年間約9万人のドライバーの労働力に相当するとされています。
サービス向上や消費者の保護の観点から見れば、再配達や受け取り拒否という機能は必要と言えますが、これらはドライバーへの負担、さらには運送業者の効率化悪化に繋がります。
課題④載積効率の悪さ
運送トラックの荷台いっぱいに荷物を詰め込んで運ぶことができれば、もちろん運送効率も向上します。しかし、実際のトラックの平均積載量割合はわずか40%で、約60%は空きがあるとされています。これは、時間指定配達や、再配達などのサービスの進展によるものであるといえるでしょう。
課題⑤ヒューマンエラーへの対策
膨大な量の荷物を人が管理する中で、人的ミスが発生するのは仕方のないことです。そこで重要となってくるのは、ミスへの防止・対策です。どの段階でミスが起きにくいのか、ミスが発生した後どう被害を食い止めるかです。また、これらの予測と同時に、点検作業も大きな意味を持ってきます。誤出荷の発生する原因として、ピッキングや伝票貼り付けのミスが挙げられます。これらの段階において、正確な点検作業を行うことができれば、大幅に誤出荷を減らすことができるでしょう。
課題⑥在庫管理・入出庫管理
発注担当者の経験による発注などは、ヒューマンエラーの可能性や精度・効率の低下などが考えられます。また、市場の変化や天候情報などにも影響される需要予測は、データの変動も大きく、人の手による在庫管理は難しく過不足が起きやすいです。在庫管理が狂えば、管理コストの上昇や生産性の低下にも繋がります。
物流におけるAI活用のメリット
ここまで、6つの物流業の課題を見てきましたが、これらを解決するためにAIを導入してみるとどんなメリットが生まれるのかをご紹介します。
メリット①単調作業面での人的コスト削減
倉庫内の単純作業はAIやAI搭載ロボットにより省人化が可能です。
例えば、入庫作業では多くの場合、荷物のタグやラベルを目視で確認し、商品名や型番を倉庫管理システム(WMS)に入力するという作業が発生します。そこで、AIの画像認識技術やディープラーニングを活用することができます。膨大な数の商品がベルトコンベアで運ばれてくる中で、自動で認識・判別し、商品別に仕分けることで作業時間を大幅に短縮することが可能となります。バーコードの読み取りが難しい荷物があることも少なくない中、ヒューマンエラーも減らすことができます。
また、倉庫内作業では、棚から荷物を出し入れするために作業員が倉庫内を歩いて探すという作業が発生するのですが、パレット型やアーム型などのAI搭載ロボットを活用すれば、目的の荷物を作業員の元まで届けることや、棚自体を動かして作業員がいる場所まで運ぶことも可能です。ロボットによる積み込み作業の自動化なども実装すれば、作業時間や作業員の負担を大幅に減らすことができ、離職率の改善にも繋がるでしょう。また、作業効率も上がるので、人員不足にも対応していけるのではないでしょうか。
メリット②最適化による労働時間短縮・負担軽減
物流において、AIにより最適化が図れる場面は数多く存在します。
例えば、人員や配置の最適化、需要予測や発注管理の最適化、配送ルートの最適化などです。そして、冒頭で紹介している物流における課題についても、AIによる最適化で多くが解決・改善することが可能でしょう。
長時間労働問題は、荷待ち時間や載積効率などの最適化により改善することが可能です。GPSなどのセンサー技術活用すれば、保有する車両をリアルタイムで監視し、荷待ち時間の発生しないようなルートや、届け先の位置関係から載積量が最大になるルート、また荷待ち時間も活用できるよう載積量を管理したルートなども作成することができます。
また、長距離輸送についても、AIの活躍の幅は広いです。中継輸送やコンテナラウンドユースなどが、長距離輸送の最適化に当たります。中継輸送とは、遠くへ荷物を輸送する際に、出発地と目的地の中間地点で別のドライバーに受け渡し輸送することで、各ドライバーにかかる負担を減らすことができます。また、コンテナラウンドユースとは、海上コンテナでの輸出の際、港で陸揚げされ陸上輸送が終わった空のコンテナを、空のまま戻すのではなく、その地で別の貨物をコンテナに積み込んでから戻す仕組みです。これは、2往復分の貨物輸送を1往復分減らすことができ、また輸送量が減ることによりCO2や排気ガスを減らすことが可能です。これらを実現するためには、まず「相手」を見つける必要がありますが、そこで必要不可欠なのがAIです。どのトラックが、何時に何処へ向かうのか、何処を通ってどれくらい積み込めるのかなどを、AIを活用して情報共有することによって、無駄を省き時間もコストも最適化することが可能です。
「最適化」はAIに求められる大きな魅力であり、多くのAI関連企業はこの「最適化」に力を入れていることをアピールしています。
メリット③正確な点検・検品作業と安全管理
AIの特徴の一つに、「正確さ」がありますが、これが存分に発揮されるのが点検・検品作業です。
膨大な数の荷物を管理する上で、ヒューマンエラーは確実に起こりうるとも言えますが、それを点検段階でAIが察知し誤発送を防ぐことができれば、トラブル対応や負担が減り、効率や信頼性も高めることができます。また、検品作業についても、誤った品が混在していたり、商品の外観に傷や穴開き等が生じていたりすれば、荷物が配送ネットワークに流れる前に食い止めることが可能になります。
また、AIの異常検知機能は、危険の多い倉庫内や配送中において重要な役割を果たします。
倉庫内の作業において、主に危険視されているのが、フォークリフトの危険運転ですフォークリフトによって起きる事故は、接触事故以外にも、挟まれ事故、荷崩れ事故、車体の転倒、パレットの転落などがあります。AIの自動運転や危険運転を察知する仕組みがこういった事故を未然に防ぐことに有効だと言えます。例えば、車体に加速度センサーを設置し、そのデータの解析から、運転手が起こす衝突や急ブレーキなどのアクションを検知するなどです。また、トラック配送についても、AI搭載の車内カメラを設置することで、ドライバーの状況を監視・分析し、居眠りをする兆候を映像から判別した際に、アラートを鳴らしドライバーに呼びかけることで、事故を未然に防ぐことが可能です。
メリット④AIによる在庫管理
そもそも、人間の業務を代行するという前提における、AIの強みとは何でしょうか。
様々あると思いますが、「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる技術はAIの大きな強みであると言えるでしょう。ディープラーニングのおかげで、AIは人間のように様々なパターンを経験し、学習していくことができます。AI自身が学習を重ねていくことで、質は高まっていきます。
そこで、そんなAIが即コミットできると考えられる物流業務の課題は何でしょうか。在庫管理や需要予測ではないでしょうか。なぜなら、在庫管理のために需要を予測するのには、過去の売上・顧客属性・需要変化や立地条件など、あまりにも膨大なデータを同時に分析することが必要になりますが、これを人の手でしようとすると精度が落ち、最終的には経験や勘に頼ってしまうことになってしまうからです。需要予測や在庫管理にAIを用いることで、様々なデータを正確に反映し、かつヒューマンエラーの少ない運営が可能になると言えるでしょう。
物流AIの今後の課題
荷物は増え、人員は不足する中、物流の現場でのAI活用はまだまだ進んでいません。自動運転についての法規制や、実際に運用した際の使用感など、要因は様々挙げられますが、やはり一番大きな点でいえば、「コストがかかる」ことでしょう。
もちろん、利用した際のコスト削減は見込めるでしょうが、システム導入やロボットの購入などの初期費用についても念頭に置かなければなりません。物流課題のソリューションであるAIの現在の課題は、その「社会実装」のしづらさだといえるでしょう。
デジタルトランスフォーメーションへの企業の取り組み
デジタルトランスフォーメーションとは?
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは「デジタルによる変革」を意味し、IT技術の進化にともなって、新しいサービスやビジネスモデルを展開し、コスト削減し・働き方改革・社会の変革などを目指す施策の総称です。スピーディーに変化していくビジネス環境に、主にIT技術の面で対応していく姿勢を、ITとの親和性の高い企業はもちろん、親和性の低い企業でも持ちながら取り組まれています。
ITやAI技術が社会に浸透することで、資源や人員の無駄を抑え、新しいビジネスやサービスを生み出す、そして社会問題を解決していくことこそがDXの目的です。2018年には経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を設置し、国家的な取り組みとして注目されています。各企業でも重要性が高まっており、事業の存続のためにDXを掲げる企業が増えてきています。
各企業の具体事例
「NEC」
NECでは、DXがクライアントの課題解決に有効であるとし、AI技術群である「NEC the WISE」が、多数の導入実績をあげています。また、DX戦略にも力を入れていて、クライアントの課題にITがどう貢献できるかを検討し、新たなイノベーションを生み出す「共創」を実践しています。また、「共創」の実践の場として、「NEC Future Creation Hub」を用意したり、新たな価値を創造できる人材の育成にも努めています。
参照:NEC「NECが創出する社会と産業のデジタルトランスフォーメーション」
「Hitachi AI Technology」
株式会社日立物流では、作業コストの大きい集品作業の効率化を課題に設定し、過去の集品作業のデータをAIに読み込ませて作業効率に強い影響を与える要素を導き出すという、AIの利用を行いました。そこから施策を検討したことで、結果的に集品作業に掛かる時間を平均8%短縮できたとしています。日立では、デジタル技術を活用した社会イノベーション事業を推進していて、その成長をグローバルに拡大していくための人財の強化にも力を入れています。
参照:Hitachi「Hitachi AI Technology/業務改革サービス」
まとめ
AIを活用することで、より正確・迅速に高品質な商品を生み出すことができ、さらに人件費の削減や配送費の上昇抑止も見込むことができるでしょう。導入のしづらさを解消するために、企業の努力ばかりではなく国による援助や補助金などがさらに活発になる必要もあるように感じます。世界全体がデジタルに向かって走る中で、経済へのデジタルの浸透は国にとっても急かしたいはずだとは思いますが、今後どのように世界が変革していくのか、どんなソリューションが生まれてくるのか、アンテナを張っておきたいですね。
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